アイヌと、宮古人以外の琉球人に共通するウイルス
2003 年 9 月 16 日 火曜日 白血病の原因となるウイルスのことであるから、人の健康という点でいえば、あまり喜ばしい話題とはいえない。
成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルス(HTLV)は、人類の地球規模での移動を研究する上で注目されていうウイルスである。そのHTLVには、I , II , III 型の3種類があり、そのうち日本列島の人々の体内に存在する型はI 型である。
そのHTLV-1型ウイルスは、アジアではインド人の一部と日本人にだけにあり、東南アジア、朝鮮・中国などには分布しないらしい。日本列島でも全国的かというとそうではなく、与那国島以北の八重山諸島、沖縄諸島、奄美諸島、薩南諸島、九州では国東半島とその周辺を除く全域に分布し、さらに北上して愛媛県の南(南予;佐田岬、宇和島など)、徳島県の南、和歌山県の海岸沿い、さらに飛んで、東北地方の太平洋岸に一部、およびアイヌ人などに多いという。要するに太平洋の黒潮が流れている海沿いの地域に住む人々の血液中にこのウイルスはいる。国東半島から四国の北部、中国地方、近畿以北の人々の日本人(倭人)体内にはほとんどいない。また、琉球列島のなかでも、宮古島の人々はこのウイルスに感染していないことが報告されていて、極めて興味深い例外である。
HTLV-1型にも二つの型があり、亜型Aと亜型Bとよばれる。琉球人とアイヌは亜型Aが多く、琉球を除く西南日本は亜型Bが多いという(亜型Bは世界的にも日本にしかないので、亜型Aからの変種かも知れない、というのは専門家でない私の意見だからあてにはならないが・・・)。
ところで、沖縄、アイヌに関係する亜型Aは、京大ウイルス研究所の三浦智行氏によると、ほとんどの大陸に分布する汎大陸型とされ、その分布を広げた時期は、数千年前の比較的近い時期とのことである(『日本列島の人類学的多様性』勉誠出版2003)。三浦氏は
「日本における亜型A,Bの存在が示すことは、HTLV-1をもたなかったと考えられる弥生人も含めて、縄文時代以前から、後に日本列島となる地域に、何回かにわたって人々が移り住んできたということである。亜型Aの極東、南米、中東クラスター(群)が示す数千年前の感染の拡がりが、どの様な人類移動によって起こったかは興味深い。そのころは既に各地に人類が住んでいただろうから新参ものが容易に定着出来るとは思えないが、これだけ遠く離れた場所に、ほぼ同時期に感染が広がっているのは不思議である。例えば亜型Aに感染した集団が人類の歴史の中で最初に遠洋航海術を発達させた、当時の最先端の文明を持つ集団であったからという説明はいかがであろうか。」
と書いている。三浦氏はインド経由の拡散を考えているが、「アイヌのHTLV-1は北方からの伝来で、沖縄のそれは南まわりで人類始原のアフリカから来たのであろう、との説もあって、まだまだ究明が必要のようである。いずれにしても東北アジアでは、日本列島にだけHTLV-1が存在すること、またその中の亜型Aが琉球人とアイヌに特有であることなどから分かることは、琉球とアイヌの近縁性、とアイヌ民族と日本人の近縁性を示唆するものである。
HTLVに関しての不思議の一つは、宮古島人にはほとんどHTLVキャリヤーがいないということであろう。しかし、私の歴史観から云えばこれは当然のことであり、宮古人の祖先たちは、おそらく4~10世紀のある時期に、畿内などの本州島中心部から政治的理由で南島に逃れてきた人々であるから、と考えている。宮古の倭人(原日本語を話す人々)の歴史は沖縄・奄美に比べると新らしい。しかし、彼らの志操は、原理主義と云っては大げさであろうが、彼らのオモイを守るという意志においては、極めて高い。
ところで、日本では年間700名程度の発症とのこと。キャリアー(ウイルス感染者)でも白血病を発症する率は極めて低い。また、その感染ルートのほとんどが、母乳感染であることが分かっていて、新生児の母親がウイルス感染者であれば、人工母乳にすれば感染は防ぐことが出来るので、あと数十年で根絶可能とのことである。
追記:日本海側では、隠岐島が特異的にキャリアの多い土地である。日本で闘牛の盛んな土地といえば、沖縄、徳之島、宇和島、隠岐島などであるが、その全てがHTLVの分布地域である。これは偶然のことかも知れないが・・・
