名護オジの歴民講座(9)富士の女神:コノハナサクヤ姫

 『古事記』・『日本書紀』に、コノハナサクヤヒメ(木花之佐久夜毘売)が出てくるが、この神は実は富士山に関係する祭神として有名である。浅間(せんげん)神社という神社が、静岡県側と山梨県側にたくさんある。全国で二千以上と云われるが、富士山周辺に密度高く分布する。その浅間神社の祭神が「コノハナサクヤヒメ」であり、富士山の神と云って差し支えないであろう。この神は単に富士山の神であるばかりでなく、ヤマト国家の成立にとって極めて重要な意味を持つ。
 『古事記』ではまたの名として神阿多都比売(カムアタツヒメ)。『日本書紀』では神吾田鹿葦津姫、またの名は木花開耶姫という形で書いてある。大山祇神(おおやまつみのかみ)の娘で、神武天皇の祖母の母、すなわち曽祖母にあたる。神武の曽祖父 ニニギノミコトが筑紫の日向の高千穂のクシフル嶽にやって来て、海岸を歩いていたら、美しい乙女が従者を連れてやって来た。それがキラキラしく美人のコノハナサクヤヒメ。すぐにプロポーズした。この話は名前の「吾田」からも分かるように、薩摩半島で起きた物語となっている。
 プロポーズされた彼女は、父親(大山祇神:伊予一宮の祭神)と相談する。大山祇神は云う。「私には二人の娘がいる。姉は岩長姫といい、名のようにゴツゴツした醜い顔の女である。妹の木花之佐久夜毘売はこの通り、キラキラしく美しい。貴女が二人を共に妻とするならば、きっと栄えますでしょう」。ニニギノミコトは、岩長姫を断り、妹だけを妻とする。
 実はこの話には、ヤマト国家形成にいたる深い秘密が隠されている。大山祇神は金属鉱山の神であり、その子である岩長姫は、鉱石の神、次に生まれたその妹のコノハナサクヤ姫は、岩石を処理した次の工程で出来るキラキラしい金属の精にほかならない。大山祇神に象徴される瀬戸内の海人たちは、出雲と連合し、その金属精錬技術を薩摩に売り込み、もって大連合を形成しようとした歴史が神話となったものと解釈すべきである。事実、この話の前段はいわゆる「出雲の国譲り」であった。北部九州、瀬戸内勢力、出雲などの中国地方の勢力は、その連合を拡大し、いわゆる邪馬台国連合を形成していた。
 薩摩半島には砂鉄が採れた。それを使って鉄を国内生産しようとの、邪馬台国側の提案を薩摩側が断わったことが、岩長姫拒絶になっているのであろう。おそらく当時、薩摩の海民たちは、大陸の金属製品を輸入することにのみ関心があり、岩石(岩長姫)でもって金属(コノハナサクヤ姫)を得ることを不必要と考えた。
 静岡にも大山祇神を祀る神社がある。三島市の三嶋大社である。祭神は、大山祇神と事代主神(出雲の神)で、この御二柱を三嶋大明神と総称する。伊豆の島々の噴火・造島活動、富士山の度重なる噴火との関わりもあると思われるが、それ以上にこの地方の国家創建の頃の金属精錬と関わりが深いことを意味するものと考えるべきである。
 さて、話を戻して、コノハナサクヤ姫の生んだ子の一人(山幸彦)が、薩摩半島から特殊な舟にのって一晩かかる海神の宮に行き、神武天皇の父親であるウガヤフキアエズを生むこと、また海神宮が奄美・沖縄のことにほかならないことは既に歴民講座(5)で述べた。

コメントをどうぞ